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◎今月のコラムは、10月発行「岩手産業保健総合支援センターだより」に掲載
している当センター【産業保健相談員 田村 浩一先生】のコラムをご紹介します!
ブレンナー峠を越えて (嗜好と健康の分別とバランス)
産業保健相談員 田村 浩一(労働衛生工学)
【労働衛生コンサルタント、第1種作業環境測定士】
四半世紀前の思い出が,この季節になると心をかすめる.水色と白のストライプ.
楽団の入場.演奏と唱和が始まり歓喜は最高潮.“♪Ein Prosit, Ein Prosit”.
10月の第1日曜日を最終として2週間続く“OKTOBER-FEST”.巨人たちに混じっ
た小人がマグを6杯.安全な街に帰路の記憶も薄らぐ至福のひとときだったが,既
に霧が立ち込め肌寒く,ビールには少し残念な季節になっていた.暫く滞在し晴天
を待ちたいところではあったが,連れは「25年に一度,聖なる扉が開く年」と,
限られた日程の中でバチカン行きを譲らなかった.
ローマまでの旅は,早朝のミュンヘン中央駅から約12時間.コンパートメント
席の車窓は,またしても霧.旧市街から郊外へ,田園風景も曇り空.列車と時が静
かに進み流れる.インスブルックを過ぎ,峠の駅で交流・直流切替の小休止.Brenner
(ブレンナー), Brennero(ブレンネッロ),二つの駅名が併記されるオーストリア-
イタリア国境である.来し方は鉛色の,行く先南方には,ゲーテが憧れイタリア紀
行に表したという,地中海まで抜けるかのようなコバルトの光が広がる.南チロル
を下りベローナへ.日もとっぷり暮れた頃ローマテルミニ駅に到着.翌朝,これぞ
天空ローマの青.その天からのご褒美か,ホテルの一階には“水色と白のバイエル
ン-ストライプ“Löwenbräu”.ミュンヘンから列車直送で届く樽生だ.
サン・ピエトロ訪問後の昼下がり,早速ここで“Ein Prosit”.人生屈指の喉越し
に確信を得る.美味しいビールの条件は,1.ビール自体の出来栄えと状態,
2.飲む場所と時の天候,3.体調(できれば良い仕事を成し終え,一汗かいた後).
3つ整うことが最良.これに違いないと.
思えば地球を飲み歩いたものだ.サウナ上がりのLapin Kulta/フィンランド,砂
漠の黄昏でCeltia/チュニジア.甲乙つけがたい.生涯で一番美味しいと感じた一
杯は,真夏のヴァーツラフ広場の露店で紙コップの立ち飲みPilsner Urquell/チェ
コ.水より安く,1杯80くらいだった.
この「渇きの潤し方」が,長年に渡り脱水を助長し,私の腎機能低下の伏線に
なったのかも知れない.当時は健康診断の結果にe-GFRの表記もなかったが,産業
医からは「衛生管理者ならば自重せよ」とお叱りをいただく.職場巡視に熱心な先
生だった.
さても単なる呑兵衛親父が「嗜好」,「人生の質」だのと己を正当化するのは見
苦しく,立場上もアルコールがIARC発がん性分類グループ1であることを完全無視
する訳にもいかず.ストイックに健康に拘るか,今楽しく生きることを至上とする
か.連載寄稿や資料提出の締切が迫れば,心の矛盾は激化するも,晩酌抜きでパソ
コンに向かう日々へと変わらざるを得ない.そして一区切り節目のご褒美に,馴染
みの店で少々嗜む.結果,肝機能については数値も落ち着いてきた.私の「弁証
法=アウフヘーベン(止揚)」である.“正当化”に懲りていない.
ところでクラフトビールでお馴染みのWeissbier(ヴァイスビア).バイエルン
典型のスタイルで私の一押しだが,この製法には,常温から高温で活発に働く上面
発酵酵母が使われる.発酵中の酵母は炭酸ガスと共に浮上し,麦汁の上に酵母層を
形成する.
これが本当の「アウフヘーベン( auf-heben:上に-持ち上げる)」である(=オチ).
ヘーゲルもビールの聖地(修道院ビールの発祥)ヴュルテンベルクの生まれと聞く.
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