コラム209号 掲載

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◎今月のコラムは、1月発行「岩手産業保健総合支援センターだより」に掲載している当センター【産業保健相談員 髙橋 久美子先生】のコラムをご紹介します!

小さな家族の存在

産業保健相談員 髙橋 久美子(保健指導)
【保健師、看護師、産業カウンセラー】

わが家には、3人の子供がいますが、7年前に新しい家族が増えました。
ミニチュアダックスフンドの女の子、「はな」です。
 末っ子が10歳の頃に迎えたので、はなはどこか“妹分”のような存在。子どもたちと一緒に育ってきました。
 保健師という仕事柄、人の人生のほんの一場面に触れることが多くあります。特にこころの不調を抱える方との対話では、「こうすれば正解」という答えはありません。
 ただ話を聴き、その人の言葉や沈黙に寄り添う時間になります。
 面談を終えたあと、「これでよかったのだろうか」と立ち止まり、相談者のこれからをぼんやり考えてしまうこともあります。

 そんなとき、私の気持ちを静かに整えてくれるのが、言葉の通じない小さな家族、はなとの時間です。
 私が話しかけても、はなは答えることもなく、ただそばにいてくれるだけ。
 その存在が、不思議と心を落ち着かせてくれて、いつの間にか私なりの「調整法」になっていました。

 「言葉が通じたらいいのに」と思うことは、何度もあります。
 今、何を考えているのか。何がしたいのか。どのドッグフードが本当は好きなのか。
 暑い?寒い?体調は大丈夫?今幸せですか?
 ドラえもんの道具でいうと、「翻訳こんにゃく」が売っていたら、たぶん真っ先に買いに行くでしょう。
 でも、その一方で、こんなことを考えてしまうのです。
 もし、はなと日本語が通じたら、「ちょっと別の家に行きたいんだけど」なんて言われたらどうしよう、と。
 そう考えると、相手の本当の気持ちを聴くというのは、少し勇気がいることなのかもしれません。

 子どもたちは時々、「はなになりたい」と言います。学校のことも、進学も、将来のことも考えなくていいから、と。
 でも、きっと彼女にも、彼女なりの思いや気持ちがあるはずです。
 言葉が通じないからこそ、「ここにいて安心」「ここに来てよかった」と感じてもらえるような関わり方が大切なのではないか。
 そう思って、触れ方や声のかけ方、目を合わせるタイミングに、自然と気を配るようになりました。
 言葉がない分、表情やしぐさ、距離感に意識が向きます。
 触れること、目を合わせること、声のトーンを変えること。
 そんな小さなやり取りを重ねながら、安心できる関係になっていればいいなと思っています。

 人との関わりにおいても、「何を言うか」よりも「どう聴くか」が大切な場面は少なくありません。
 答えを急いだり、評価したりするのではなく、ただその人の存在を、そのまま受け止める。
 その在り方は、はなと過ごす時間に、どこか重なるような気がしています。

 親元を離れ、人間の世界で一緒に生きてくれている犬のはなに感謝しながら、相手の声に耳を傾け、言葉が通じなくても声をかけ、表情やしぐさに気持ちを向けて、そばにいる。
 その積み重ねが、信頼関係を築いていくのだと思います。
 傾聴や寄り添いの大切さを、私はこの小さな家族から今日も教えられています。

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